デサイロでは2025年4月から6月にかけて「アメリカン・ダイナミズムの精神史」というレクチャーシリーズを実施しました。
同年1月20日、第2次ドナルド・トランプ政権が発足。発足初日、パリ条約からの脱退、米国第一の貿易政策、国境への軍隊派遣による移民抑制策など、さまざまな大統領令が発令され、アメリカ社会・政治がダイナミックに変化していくことが示されました。
実験国家とも称されるアメリカは近年、民主・共和両党において主流派のプレゼンスが低下し、左右のポピュリズムが台頭することで、その極の振り子の動きがより大きくなっています。こうしたなか、日々変化する現状理解も重要です。しかし、そもそもアメリカが建国以来どのような変遷でいまに至ったのか、その行動を支える原理・原則、精神性、思想的/宗教的基盤をひも解くことで、より深い現状理解に至れるかもしれません。
これまでもさまざまな研究者や有識者の方々が、アメリカの精神性や観念を捉えようとしてきました。例えば、『ファンタジーランド: 狂気と幻想のアメリカ500年史』の著者カート・アンダーセンは、その精神を次のように分析します。
「アメリカは、夢想家たちによる夢の世界の創造物だ。宗教的な者もいれば、手っ取り早く金持ちになりたがる者もいるが、誰もが異様なまでに驚きを求めている。さまざまな魔法や運命を心に信じる気持ちに加えて、強化された独特の過剰な宗教DNAもまた、アメリカ人独自の気質の源となった。たとえば、神秘的なものを文字どおり受け止めたり、エリートによる迫害にきわめて敏感に反応したりといった気質である。アメリカは、プロテスタントの国として設計・建国された最初の例であるだけでなく、啓蒙主義の国として設計・建国された最初の例でもある。両者は互いに補強し合う関係にあり、結びついて有害になることもあった」
そうした幻想・産業複合体の終着点として、アンダーセンは2016年のドナルド・トランプ大統領の当選に言及します。つまりはトランプ政権誕生の背景には、狂気と幻想を信じ続けた夢想家たちのこれまでの歩みがあったというわけです。
レクチャーシリーズの各回では、トランプ支持基盤のひとつであるキリスト教福音派(キリスト教保守)から宗教再台頭の時代に迫ったり、アメリカを支えてきた哲学思想「プラグマティズム」や、トランプ以前に脈々と受け継がれてきた保守主義の思想史を考えたりと、アメリカの「いま」を考えるための論点を一つひとつ深ぼっていきました。
■プログラム各回詳細
第1回:民主主義のダイナミズム──米国大統領の「象徴性」と「権限」の限界
2025年4月10日(木)19:30-21:30(オンライン開催)
いま、民主・共和の二大政党間や政党内、それを支持する国民においても「政治的分極化」が進んでいます。こうした分極化は民主主義のダイナミズムや米国大統領制にどのような影響を与えているのでしょうか。第2次トランプ政権の動向から、米国を支えてきた理念やナショナル・アイデンティティの変遷まで、共編著『アメリカの政治 第2版』や共著『混迷のアメリカを読みとく10の論点』、単著『アメリカ大統領とは何か: 最高権力者の本当の姿』などで知られる研究者・西山隆行さんにご解説いただきます。
ゲスト:西山隆行(アメリカ政治/成蹊大学法学部 教授)
第2回:トランプ再選と「宗教」再台頭の時代
2025年4月22日(火)19:30-21:30(オンライン開催)
2016年米大統領選においてトランプの支持基盤のひとつとなったのが、米国の南東部に位置する「バイブル・ベルト(聖書地帯)」に多く住むプロテスタントのキリスト教福音派(キリスト教保守)でした。そして、2024年米大統領選ではキリスト教福音派の票に加え、ヒスパニックのカトリック票が重要な再選理由に。伝統的なキリスト教が衰退するなかで、なぜキリスト教福音派やカトリック票の影響力が増しているのでしょうか。米国政治とキリスト教の関係性について、『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』の著者である松本佐保さんにご解説いただきます。
ゲスト:松本佐保(国際政治史、国際関係/日本大学国際関係学部 教授)
第3回:J・D・ヴァンス、イーロン・マスク、そしてピーター・ティールを支える思想的・宗教的基盤
2025年5月6日(火)19:30-21:30(オンライン開催)
副大統領に就任したJ・D・ヴァンスの元上司であり、ヴァンスとドナルド・トランプを引き合わせた”キングメーカー”である伝説の起業家ピーター・ティール。ティールが師事した思想家ルネ・ジラールの模倣理論から、聖書的世界観および終末論まで──第2次トランプ政権におけるキーパーソンを支える思想的・宗教的基盤とはいかなるものでしょうか。キリスト教思想および道徳的価値観の観点から現代社会について研究してきた柳澤田実さんにご解説いただきます。
ゲスト:柳澤田実(哲学、キリスト教思想/関西学院大学神学部 准教授)
第4回:3つのキーワードから読み解くアメリカ思想史
2025年5月20日(火)19:30-21:30(オンライン開催)
アメリカ合衆国の歴史と、それを支えた観念や精神はいかにして育まれてきたのか。『アメリカを作った思想——五〇〇年の歴史』の翻訳者であり、アメリカ思想史を専門とする入江哲朗さんによれば、左右両極を節操なく行ったり来たりしているようにも思われるアメリカ思想も、長期的に見ればそこにパターンを見出せるそうです。そのパターンを、「意識の高さ」「問題解決志向」「行動的な読み換え」の3つをキーワードとしながら、入江さんにご解説いただきます。
ゲスト:入江哲朗(アメリカ思想史/東京外国語大学世界言語社会教育センター 講師)
第5回:テック右派の台頭と、「トランプ以前」を読み解くためのアメリカ保守主義の思想
2025年6月3日(火)19:30-21:30(オンライン開催)
「保守」という呼称に反し、社会改革をめざす思想であった戦後アメリカの保守主義。ドナルド・トランプにつながる保守思想の系譜とアメリカ政治にもたらした影響、そしてイーロン・マスクを筆頭とした「テック右派」たちの動向について、『アメリカ保守主義の思想史』の著者である井上弘貴さんにご解説いただきます。
ゲスト:井上弘貴(アメリカ政治思想史/神戸大学大学院国際文化学研究科 教授)
第6回:自己啓発とプラグマティズムからひもとく、「生き方」としてのアメリカ哲学
2025年6月16日(月)19:30-21:30(オンライン開催)
「根底にあるスピリットは“動き続ける思想”です。そして“基礎を据えない”」。雑誌『スペクテイター〈51号〉自己啓発のひみつ』におけるインタビューにて、齋藤直子さんはアメリカ哲学をこう表現します。哲学者スタンリー・カベルに師事し、“アメリカ哲学の父”とも称されるラルフ・W・エマソンや、ジョン・デューイを研究してきた齋藤さんに、アメリカ哲学から見えてくる、アメリカという国の精神性をご解説いただきます。
ゲスト:齋藤直子(教育学、哲学/京都大学大学院教育学研究科 教授)
第7回:ラウンドテーブル
「リベラル・デモクラシー」はどこへ行くのか? テック右派、宗教保守、大統領制の視点から考える
井上弘貴(アメリカ政治思想史/神戸大学大学院国際文化学研究科 教授)、西山隆行(アメリカ政治/成蹊大学法学部 教授)、松本佐保(国際政治史、国際関係/日本大学国際関係学部 教授)
「アメリカ」を支える思想的・宗教的基盤はどのように変化してきたのか。その源流と現在地を探る
入江哲朗(アメリカ思想史/東京外国語大学世界言語社会教育センター 講師)、齋藤直子(教育学、哲学/京都大学大学院教育学研究科 教授)、柳澤田実(哲学、キリスト教思想/関西学院大学神学部 准教授)

